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コンテンツマップ2024/10/11 13:52 
tools:3dprint:qidi3:index.html

QIDI X-Plus3


3Dプリンターを1台追加しました。びゅんびゅん高速プリントするCoreXY機です。これは会員が一般に利用できる機械にします。

経緯

ファブ施設として、技術面では3Dプリントは目玉の一つではあるものの、実際の3Dプリンターの会員利用はほとんど無いのが実態です。
一番大きな要因は、プリントに長い時間がかかることだと思います。

従来の3Dプリンターで手のひらに乗るぐらいのモデルをプリントしようとしても、6時間とか8時間とかすぐにかかってしまいます。1日ががりで拘束され、さらに時間あたりの利用料金をかければ結構な金額にもなってしまいます。
さらにプリントの設定をしてスライスしないと、その加工時間がわかりません。

施設側にしても、長時間機械が専有されると他の会員の利用にも差し支えるので利用時間に上限を設けておくことにもなりますし、営業時間外にかかるような長時間プリントは受けられません。会員側、施設側の両者にとって、どうしても使いにくさが先に立ってしまいます。

結局、よく使うつもりなら自分で3Dプリンターを購入したほうがよいと、こちらから薦めるようなことになってしまいます。

そのような困った状態の3Dプリンターでしたが、状況を変えてくれる可能性のある、高速3Dプリンターの機種が最近増えてきました。高速といっても、倍速とか言うレベルではなく、一気に10倍に近づこうかという3Dプリンターです。これだと従来1日ががりだったものが1、2時間でプリント出来、1日かければこれまで数日はかかったような大きなものがプリントできることになります。

ということで、状況の改善ができるかもしれないと考え、高速3Dプリンターを1台導入しました。宣伝通り10倍速で運用できるとは思っていませんが、確かに速いです。今後一般に利用してもらうための準備を進めています。

CoreXYについて

最近の高速な3Dプリンターを支える基本技術がCoreXYというものです。説明はこちら(プリンターの種類と違いについて(Plusa Reaserch))が整理されています。それでも何だかよくわかりませんが。
従来、X軸、Y軸それぞれの軸専用のモーターからベルトで繋がれてプリントヘッドが移動するのですが、特殊なベルトの掛け方にすることで、固定された2つのモーターが、X軸用・Y軸用ということではなく両方が連動してプリントヘッドを移動させる構造です。

上のリンク先のベルトの取り回しの図で、プリントヘッドを前後(Y軸方向、この図では上下になります)に動かすことを考えてみると、このとき2つのモーターの回転は逆方向で、ベルトの移動量は同じになることがわかります、次にこれを左右(X軸方向)にしてみると、やはりベルトの移動量は同じで、今度はモーターの回転方向が同じになります。
軸方向以外の斜めのどこかの座標に移動するときは、移動をX軸方向、Y軸方向に回り道したときのそれぞれのベルトの移動量と向きを足し合わせたものになると考えればいいので、様々な向きと値でモーターを回して2つのベルトを動かすことで、どこにでも移動できそうだとイメージできます。

従来の直交型プリンターではプリントヘッドに合わせて軸も移動していたのが、CoreXYでは固定されるので、移動する部分の重量が減ったために高速化出来るようになったと上記リンク先では説明されています。
とはいえ、QIDIのXシリーズの構造では、X軸用のモーターは新型の高速機で固定になりましたが、X軸が移動する構造自体は変わっていないので、本当にそれだけかなという気もします。

ちなみにデルタ型の3Dプリンターは、常に3つのモーターが連携してプリントヘッドを3次元的に移動させてプリントする構造となっているので、CoreXYZとでも言えるかもしれません。
それでも手元のATOM(Maestro)でプリント速度が特に速いわけでもなかったのは、内部の制御基板が8ビットで計算処理が追いつけなかったのではないかと思っています(現行の後継機種では32ビットになっています)。そのため、ATOM(Maestro)にはKlipperを導入することで高速化を図りたいと前々から考えています。

Klipperについて

CoreXYよりも前から耳にしていて、自分でもやってみたいと思っていたのが、3Dプリンター汎用ファームウェアのKlipperの導入です。

Raspberry PiなどのLinuxマイコンボードを3Dプリンタに繋いで、Klipperを使うことで、3Dプリンター内部の制御基板の能力以上の計算をマイコンボード側で肩代わりして、より高度な制御を行い、高速化かつプリント品質を向上させることができる仕組みです。

3Dプリンター内部の部品の振動の共振が原因で、3Dプリント表面に不要な模様が出てしまうのを、加速度センサ部品を追加して共振の周波数を調べて、プリントデータに補正をかけることで模様が発生しないようにする対応もされています。

Klipper導入例のネット記事とかは見つかりますが、もともと英語の元サイト(Klipper documentation)の情報を元に自分で導入・設定して環境を作ってゆくものなので、手間と時間がかかります。

興味はあったものの、ちょうど半導体の品不足からRaspberry Piが入手しにくくなった時期で、手持ちの分はPLC用途に使ってしまっていたので手を出さずにいました。現在では市場在庫は戻ってきましたが、販売価格が大幅に上がってしまったので保留しています。

QIDI X-Plus3 の機能

QIDI TechのX-PlusX-Maxをこれまでずっと使ってきました。値段が安い割にプリントがきれいで使いやすい個人向け3Dプリンターです。
当然値段が安いので、使われている部品はそれほど高価なものではありませんが、安価な汎用部品を適材適所に組み合わせて、高い剛性のフレームで安定したプリントを実現しています。中国メーカーながらサポート体制が手厚いというのも初心者にはありがたかったです。

QIDI Techからは、その後iシリーズという業務用メインで高品質部品を多用した製品が出たりしていました。
さらに昨年発売されたXシリーズの後継機が、CoreXY構造を採用し高速プリント可能で、ファームウェアにKlipperを導入したというものでした。

高速プリンターがあったほうがよいかと思っていたところで、さらにKlipperまで入っているということで、導入することにしました。一般に、CoreXY構造で高速プリントを売りにした機械が各社から発売されている状況ですが、どれもカタログスペック上は大差ないように思いますので、ミドルレンジの手頃なものならどれでもよく、使い慣れた実績のある会社のものが安心できると判断しました。

X-Plus3はX-Plusから5年ぶりの後継機ですが、現物を見てみると、その間の様々な改良や新技術が盛り込まれていることが実感できました。

プリント速度

プリントしているところを見ていると、確かにプリントヘッドの動きがやたら速く感じられ、ちょっと怖い感じさえしました。この速さで設定ミスや事故が起きたら、高速でヘッドが衝突して大惨事と考えてしまいます。

プリント速度は最大600mm/sと謳われています。従来機では通常50~60mm/sぐらいの速度設定でプリントしていたので、単純計算で10倍になります。

とはいえ、実際にはノズルが10倍も速く溶けた樹脂を置いていっても、樹脂側がそれに合わせてきちんと固まってくれないと、結局速いだけで汚いプリントになりかねません。糸引きの発生や、層間の接着強度などはどうなのかなど、気になる点もあります。Klipperは高速化に伴う品質低下をカバーするために採用されたと考えます。

従来使っていたようなフィラメントでどのくらいの速度まで対応できるかはまだ試していないのでわかりませんが、市場には高速プリント対応のフィラメントというのが存在しています。
QIDI Techからもその手の純正フィラメントが発売されています。このフィラメントが対応する最高プリント速度は400mm/sということで、機械側の上限よりは大分下回ります(それでも従来機の6倍以上の速さでプリントOKということになりますが)。

もともと従来機でも、本体に添付されてきた純正のフィラメントは、他の市販フィラメントに比べて非常にキレイにプリントできたので、市販してほしいと思っていました(当時は国内では市販されていなかったと思います)。現在ではQIDIブランドで樹脂の種類も色もたくさんラインアップされるようになっており、特殊な用途でもなければ不足はありません。X-Plus3では、このQIDIの純正フィラメントを常用することにしようと思います。

また、可動部分が高速で動き回るということは、それだけ各部品の負担が大きくなって、ヘタリも早く来ると考えられますので、日常のメンテナンスをちゃんとやることがユーザーには求められてきます。
公式Wikiにもメンテナンスの項目が設けられています。具体的には各軸上のゴミの除去と給油、冷却ファンの清掃を行うことになりますが、構造が変わったことで、従来機よりも軸へのアクセスがしやすくなりました。軸にオイルを手塗りするには、折った紙などでベルトを覆いながら作業すると、誤ってベルトに油を付けてしまうことを防げます。

プリントスペース

プリントできる範囲は、従来機のX-Plusの270x200x200mmから、280x280x270mmかなり大きくなっています。X-Maxの300x250x300mmにも近づいていますので、これで十分ではないかと思います。
HFプレートは外してます

もちろん新型のX-Max3なら、325x325x315mmとさらに大きいのですが、最大サイズでプリントすることは実際にはほとんどないですし、跳ね上がる本体価格分のメリットがあるかは疑問です。小さくて済むのなら、寸法が小さいほうが強度的に強いので、プリント品質は有利になりますし。

家庭用には、もう一段小さいX-Smart3(175x180x170mm)がいいのではと思います。

プリントノズル

従来機では、ナイロン等の高温が必要な樹脂用に高温用プリントヘッドが別にあり、同梱されていました。必要なときに自分でプリントヘッドを交換して対応するようになっていました。
新型機では、ノズルの対応温度範囲が上がって、1つでナイロンなどの高温材料もプリントできるものになりました。
プリントヘッドは縦長のスマートな形になりました 同梱のCF用高硬度ノズル

その一方、カーボンファイバーが混ぜてあるフィラメント(~CF)用に、高硬度ノズルの交換モジュールが同梱されています。
カーボンファイバーは強度アップのためにフィラメントに混ぜられる材料ですが、非常に硬いので、使っているうちに真鍮製のノズルは穴が削れてしまい、ノズル部分を交換しないといけなくなります。
この削れを防ぐための高硬度素材(焼入れ鋼や上位モデルではルビーも使われます)で出来たノズルが付いた交換モジュールに換装することで、カーボンファイバー入りの材料が使いやすくなります。

この3Dプリンターは、従来よりも個人よりも事業ユースを意識した製品に仕立てられていて、強度が求められる部品製作用途でも使い勝手がよくなっています。

Klipperファームウェア

この機種は、処理能力の大きな32ビットのマイコンが心臓部に使われていて、ファームウェアがKlipperになっています。そのためか従来機よりもメニューの項目が増えていて、構成がちょっとわかりにくいです。

さらにKlipperでの共振補正(input shaper)が、メニューから実行する一機能になっています。
これは、もともと自分で加速度センサーを設置して共振周波数を調べてシステムに入力するという作業が必要なものという認識でしたが、ここではメニュー画面でボタンを押すだけで、自動で共振周波数を測定してシステムにセットしてくれます。後は何もしなくてもプリント時に共振補正が適用されます。さすが新製品の3Dプリンターです。

オートベッドレベリングも付きました。静電容量センサでビルドプレートとの距離を測定するようなので、非接触で16箇所の高さを測ってくれます。
ノズルとビルドプレートとの距離を、付属のシートでやや抵抗を感じる高さに微調整する作業を手動で行うのは従来どおりです。オートベッドレベリングは、この高さを基準としてプレートの各場所の高さを測り、プレートの傾き状況を確認します。
従来機で、ビルドプラットフォームの角の3箇所のネジで高さ調整をして傾きを直していた部分に相当します。ただし、今度は物理的な傾き調整作業はありません、その分造形の際にZ軸の上下で補正を行っていると思います。

今後も本家Klipperで新しい機能が追加されたりしたら、ファームウェアのアップデートとして反映してくれる可能性も期待できます。

ファームウェア更新トラブル(2024/6)

本体

X-Plus3の本体サイズは511x527x529mm、重量は24.3kgと、従来のX-PlusというよりもX-Maxのサイズが近いため、机の上では大きく場所を取ります。デザインは、白黒のパンダカラーになりました。

フィラメントの取付方向が横になり、防湿のドライボックスごと背面の真ん中に取り付けるようになりました。

気になったのが、本体前面の電源スイッチがなくなったことです。後ろ側の下にスイッチはあるのですが、正面からは電源を入れたり切ったりできません。消えている操作画面に触れると復帰します。
主電源は入れっぱなしで、操作はタッチパネルとネットワークにつながったPCからの指示、日中データが来ないときはスリープ状態になっているといった使い方が想定されているのでしょうか。この辺も事業ユースメインの位置づけからきているデザインなのかもしれません。

USBメモリを挿す穴も見当たらず、探したらこちらは上面の右奥の角にひっそりと付いていました。

後ろ 中左側 中右側

フィラメントホルダー

フィラメントホルダーは、乾燥ボックス兼用です。湿気の影響を大きく受ける樹脂(PLA以外の)の使用を前提としての採用だと思います。
台所用品の棚に並んでいそうな佇まいです

内部には乾燥剤を入れるスペースがあり、台所用品のタッパーのような半透明の大きなフタで密閉します。

従来では裸のフィラメントを伸ばしてプリントヘッドに繋いでいましたが、今度は経路がすべてテフロンチューブで覆われているので、限られた場所からうまく送り込んでやらないといけません。前のように取り回しが簡単なので頻繁にフィラメント交換というわけにもいきません、ちょっと面倒です。

フィラメントを取り外すときの作業も従来機と変わりました。
ノズルの温度を上げた状態で、プリントヘッド上部のテフロンチューブを引き抜いて、中のフィラメントをその場所で切ってしまいます。チューブ内のフィラメントは、後ろから引っ張り出してリールを外します。プリントヘッドから伸びている切れ端の方は、全部ノズルから排出して終わりです。

ビルドプレート(シート)

従来機からのマグネット固定式の脱着ビルドシートですが、表面が樹脂のものから金属板に変わりました。
同梱の冊子ではフレキシブルHFプレートと書いてありますが、PEIプレートにマンガンを追加したものとのことです。PEIプレートは金属板表面にコーティングを施したもので、以前通販サイトのレビューがよかったので、いつか使いたいと思っていたものです。

プリントしたものがたやすく剥がれてくれるのが第一印象です。プラットフォームのマグネットにはしっかりくっついているので、むしろそちらをはがずのに力が要ります。

冷えてくれば、力を入れなくともプリントしたものがばらばらと剥がれてくれるようですが、実際のところプリントの都度冷えるまで待っていられないので、スクレーパーで剥がしています(力は要りません)。従来機では、金属製の刃のついたスクレーパーを常用していましたが、これだと今度のビルドシートだと傷がついてしまうと思い、プラスチック製のものを使っています。

表面には細かい凸凹があります


スライサーソフトウェア

従来機では、スライサーはUltimaker Curaがベースのオリジナル版のQIDI printが提供されていましたが、ファームウェアがKlipperになったX-Plus 3等の機種では、PlusaリサーチのPrusaSlicerをベースにしたオリジナル版のQIDI Slicerを使うようになっています。

結構これまでとメニュー構成や項目が違うので最初面食らいましたが、QIDI print/Curaよりもずっと細かい設定ができるようになっている印象です。まだ使い込んでいないので詳しくはわかりません。

公式サイトのドキュメント類は、スライサーに関しては充実しています。公式ページに項目別に分かれて、操作手順、機能、各種プリント設定の仕方、トラブル対応などの説明があります(ここは英語です)。分量も多いのでむしろ目を通すのが大変です。

しばらく使っていて、メニューの項目でQIDIの公式サイトに説明が見当たらないものがいくつかあるのに気づきました。そのようなものはオリジナルのPrusaSlicerのサイトで見つかります。
スライサーのソフト自体も、QIDI製品用の設定が組み込んである以外は、オリジナル版からそれほど変わっていない感じです。


参照情報

本体自体は素晴らしいと思ったのですが、同梱の冊子は最初の設置までしかカバーしておらず、日常どう使っていくかについての記述(いわゆるユーザーズマニュアル)は見当たりません。メニュー構成も従来と異なり、新しい機能も増えている中で、使い方の基本説明がほしいなと感じました。

QIDI Techのサイトは、以前に比べて大幅にリニューアルされて、そこで提供されている情報(QIDI Tech Wiki)も増えてきています。機種別にマニュアル、メンテナンスの仕方、部品交換の仕方、トラブル対応等、必要になることも多い情報が掲載されていますので、サポートへの問い合わせの前に、まずはそちらで必要な情報をさがすというものでしょう。
※QIDI Tech Wikiは英語のサイトなので、必要ならブラウザの翻訳表示で日本語にしてください。

従来機との役割分担

高パフォーマンスの3Dプリンターが1台追加されたからといって、従来機をお蔵入りにするつもりはありません。従来機もプリント設定がきちんとされれば高品質でのプリントは問題ありませんので、役割分担ができるように利用料金や用途を分けていきます。

さらに、一般利用の対象からは外しましたが、ATOM(Maestro)は、φ0.2mmノズルで良好な精密プリントが出来るようになりましたので、こちらも別方面での使い方を考えます。



※ 長くなりましたので、導入作業の実際については、別ページです。導入編(QIDI X-Plus3の導入)

tools/3dprint/qidi3/index.html.txt · 最終更新: 2024/07/13 11:26 by Staff_Ujiie