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目次
機構模型セットの作成

オートマタを作るにあたって、動く仕組みの部分はそれほど複雑なものは必要ないと思う一方で、シンプルな仕組みを熟知して使いこなしていけるようにすることは重要に思えます。基本的な機構について参考書で知識として情報を頭に入れることと、その機構について自分なりの理解をして評価してゆくことで、使える引き出しになっていくと思います。
ここでは少しずつこのプロセスを回して整理していきます。
参考書籍
参考とした書籍は、主に以下の2冊です。どちらも、基本となる機構をわかりやすく整理して説明してあり、よかったです。内容的には重複している部分も多いですが、異なる著者が同じものに対すして説明している内容の違いを意識することで、理解が深まるところもあります。
模型の意義
知識として頭に入れた機構の情報を自分から使えるレベルに持ってゆくには、色々なやり方がありますが、実物を見て動かして実感する体験が一番近道だと思います。とはいえ、身の回りに都合よくそんな機械類が揃っていることもないでしょうから、模型を自分で作って、それをいじって実感するのが良いと思います。
今回は、3Dプリントで作れるオートマタの設計が一つのポイントですので、機構の模型も3Dプリンターで作って、設計~製作のノウハウも同時に集めていきます。
機構模型のコンセプト
機構も様々なものがありますが、その中で同じ要素も何度も繰り返し出てきます。完成品を何種類も作るのではなく、使いまわしが出来る共通部品を作成し、自分で組み立てて試すことができる汎用性の高いものにしようと思います。
ベニヤ板やMDFなどに等間隔で穴の空いた、ホームセンターで買える穴あきボード(有孔ボード/パンチングボード/ペグボード)を土台にし、その穴を利用して歯車やリンク類を取り付けて機構模型として使えるような部品群を制作することにしました。穴の間隔を基本の単位として、取り付ける部品の長さや大きさを何通りか用意します。
部品制作
<穴あきボード(有孔ボード/ペグボード)>
ベースとなる穴あきボード(有孔ボード/パンチングボード/ペグボード)は市販のもので何でもよいですが、いくつか条件があります。
条件
- 穴間隔25mmのものを使います(30mmのものもありますが、模型がかなり大きくなってしまうので対象外にします)。
- ボードの厚みは6mmのもので作成しますが、4mmのボードもあるようなので、後で対応版も作ろうかと思います。
- ボードの大きさは特に制約ありません。作りたい模型の大きさから判断します。
- ボードの設置は、容易に取り外しができる状態で壁面に取り付けるのが望ましいと思います。小さいものであれば、スタンドを作って平らな場所に立てても良いと思います。
<固定回転軸(Rev.1)>
穴開きボード上に固定する回転軸の部品。歯車、カム、リンクロッド等の各部品をそこに取り付けます。
必要な要件としては、
- ガタつきなくしっかりと固定できること。
- その一方で、容易に付け外しが出来ること。
- 取り付けた部品がなめらかに回転できること。
設計
力のかかる箇所もあるので、積層造形の3Dプリントでも強度が取れる設計をするのがポイントです。
- ボードの反り、穴開きの個体差があったりするので、多少の寸法の差異があっても動作に支障ないように余裕をもたせた設計にします。
- 3Dプリントの個体差(3Dプリンター、スライス設定、出力条件)による寸法の差異が大きいときは、条件を変えて出力し直しです。
- 回転軸の径はφ10mm。間にスリーブが入るので、取り付ける部品側の穴径はφ13mmとします。軸としては結構太いですが、今の部品の構造ではこのくらい必要になります。太い分摩耗しにくいというメリットもあるでしょう。
- 頻繁にボードへの抜き差しがあり、結構力がかかるので、3Dプリントの樹脂の方向を考慮して、部品の構成を決めます。
細い棒状のものをプリントする場合、一般に垂直に立ててプリントするよりも、水平に寝せてプリントしたほうが、フィラメントが途切れないため折れにくくなります。一方で、横に寝せてプリントすると、形状によってはサポートが必要になったり、底面が膨らんだりして、断面がきれいな円になりにくい欠点もあります。今回はボードへの取付部分と回転軸を別部品にして組み合わせることで対応しました。
プリントの方向はスライス時に設定する部分ですが、設計の段階でプリントの向きを決めてデザインします。
- 穴あきボードの穴4つを使用して、板状の部品をX字に交差させて強度と精度を確保し、そこに回転軸を取り付けた構成にします。穴に差し込む部分は、以前に制作品展示スペースで穴開きボード用の棚を作ったときのデザインを流用します(きつすぎず緩すぎずの寸法と形状を追い込んで設計してあるので)。ボードの裏側への突き出しは邪魔になるので極力少なくします。
- 回転軸に取り付ける各種の部品は、取り付け穴4つずつを使用するこの軸の位置を基本に寸法を決めていきます。そのためあまりバリエーションは増やせませんが、基本の動きを観察するぐらいならそれでも問題ないでしょう。
制作・感想
- とはいっても、現時点では、部品の脱落止め部分を設計していないので完成したわけではありません。
今後の対応事項
<固定回転軸(Rev.2)>
まずは、ボードから突き出す高さを減らす対応と、取り付けた部品の外れ止めの追加です。
設計(R2)
- 構造自体は変えずに極力高さを低くするように、各部品のデザインを見直しました(ボードから回転部品までの距離15mm ⇒ 11mm(-4mm))。
- 横方向のガタつきを抑えるために、取り付けた歯車に接触する押さえ部品の直径を大きくしました(直径15mm ⇒ 20mm(-5mm))。
- 軸の先端に切り欠きを入れて、そこに外れ止めのストッパーをはめ込む構造にしました。
プリント(R2)
対応事項(R2)
- 歯車連結用スリーブの作成。
⇒ 連結歯車対応で実施
<固定回転軸(Rev.2/3点固定仕様)>
固定軸はボードの穴4つで固定するのを基本にしていましたが、その場合、軸同士の最短距離が結構広くなってしまい、各部品も大型になってきました。その分、一つプリントするのに時間がかかってしようがないので、もう少しコンパクトにまとめられるよう、穴3つで固定するバージョンを作りました。
設計(3点固定版)
- 取り付け穴を一つ減らして、他の軸と接触しない範囲まで部品の長さを短く切り詰めました。縦横斜めに隣接する区画同士で回転軸を設定することが出来るようになります。
- 穴を減らした分、回転軸の中心部分の接地面積を広げてぐらつきを抑える構造にしました。広げた部分は、組み合わせる部品との接触部分を増やして強度を上げる効果もあります。プリントしやすいように、片面のみの対応です。
- 変更を加える部品は1つだけにして、他の部品は共用出来るようにしました。
プリント(3点固定版)
<固定回転軸(Rev.2-A(歯車連結用)>
歯車同士を組み合わせて回転させたときの減速/増速比は、各歯車の歯数の比率の逆数(歯数が10の歯車に20の歯車を組み合わせて回したら、20の歯車の回転速度は1/2に減速)になります。
大きく減速したいときは、それだけ歯がたくさんある大きな歯車を使えばいいことになりますが、現実的には大きさにも限度があります。そんなときは2枚の歯車を一体化した部品を使うことで、限られたスペースでも大きな減速比を作り出すことが出来るようになります。
今回は、歯車と回転軸の間に回転しやすくするために入れているスリーブを、逆に歯車同士を固定する部品にアレンジして使います。
設計(歯車連結)
- 歯車2枚分の厚みが必要になってくるので、それに合わせて回転軸部品の長さも長くしてやります。
- 後で気づきましたが、この2枚セットの歯車から動きを伝える他の部品を取り付ける側の軸受けも、合わせて長くしてやる必要がありました。結局、修正が必要な部品の種類がどんどん増えてしまいました。
- 修正する部品が増えたこともありますが、長さの修正だけの軸部品の設計は、横着して手順を端折りました。
- 元の部品を離れた場所にコピー。
- 軸の途中に軸に垂直な平面を設定して輪切り(ボディ分割)。
- 分割した片方を、伸ばしたい長さ分だけ軸に沿ってスライド。
- 出っ張りと溝は、ゆるみなくはまるように、隙間を狭く設定します。
制作(歯車連結)
- 3Dプリントの1層目がやや潰れ気味になっているので、出っ張った部分を手加工で削りました。
- 長さを伸ばした軸部品とスリーブは、隙間の寸法をこれまでと一緒で設計しましたが、プリントしてみるときつくて抜けなくなりそうなものがありました。部品同士の接触面積が大きくなるので、プリント時の誤差も馬鹿にならないということでしょう。
組み付け(歯車連結)
- 各部品をボード上に組み付けました。回転もリンクロッドも問題なく動きます。
- 下のハンドル付き歯車(20T(歯))を回すと、上の連結歯車(40T&20T)は1/2回転します。連結歯車の20Tにもう一つ歯車(40T)を組み合わせると1/4回転と、80Tの大きな歯車を使わなくとも対応できます。
今後の対応(歯車連結)
- 3Dプリンターのプラットホームとノズル間の調整で、プリントした部品の厚みが変わってしまい、組み合わせた際のきつさが変わっているところがあると感じられます。多少の寸法差をうまく吸収できる方法を検討。
- 今の歯車のバリエーションでは、穴の間隔が限られたボード上に取り付けて大きな減速をさせるのは難しいので、歯車の種類を増やします。 ⇒次項:14T歯車の追加で対応
14T歯車の追加(歯車連結2)
- 連結歯車は省スペースで大きな減速ができるのが醍醐味のはずですが、現在のパーツの組み合わせでは、大減速を実現できません。そこで、新たに10Tと20Tの中間の14T歯車を追加して、模型上で大きな減速ができるようにします。
- 14Tというのは、ボード上に大歯車(40T)を2つ配置した時に必要となる歯車の直径から逆算した歯数です。10Tの大型版といったデザインにまとめました。
14T歯車組み付け(歯車連結2)
前述の連結歯車の組み付け例に、もう1つ減速用の歯車を追加して、そこから往復運動をさせるようにしてみました。20T:40T&14T:40Tで、合わせて5.7:1の減速になります。ハンドルをくるくる回しても、見るからにゆったりと動いてくれます。

<歯車(Rev.1)>
歯車は、動きをズレなく伝達する手段として一般的ですが、見た目も印象的で使いたい気にさせる機構です。
前述の回転軸部品に取り付けて使います。歯数が異なる数種類の歯車を作って以下の内容を試せるようにします。
- 歯数に応じた比率での回転の速さの増減
- 速さの増減に連動する、回転する力の大きさ(トルク)の増減
- 回転方向の切り替え
基礎知識
- 歯車は、常に摩擦と滑りが変動しながら発生して回転するので、歯数が少ないと動きがぎくしゃくし抵抗も大きくなりがちです。滑らかに回転させるには歯数を多くする必要があります。
- 歯車は、2枚セットでかみあって動きを伝達するため、お互いに歯の間隔や形状を同じにする必要があります。ソフトで設計する場合も設定値を共通にして作成します。
- 2枚の歯車の位置は、基準円と呼ばれる見えない円で接するように設定します。
設計(共通)
- Fusion360を使い、歯車作成アドインのFM Gearsを利用します(平歯車、ウォーム歯車、ラック歯車が設計できます)。
- 歯車の回転角度がひと目でわかるように、印となる出っ張りを付けておきます(試してみたら、この出っ張りに指をかけて歯車を回すこともできて、一石二丁でした)。
設計(平歯車)
制作(平歯車)
- 歯車の片方の面(プリント時の底面側)の寸法が広がり気味(象足)にプリントされました。底面付近のプリント時の冷却不足が疑われます。使用したフィラメントがPLA-Fだったので、ヒートベッドの温度設定を5℃上げたせいではないかと思われます。歯車の向きを互い違いにするとスムーズに回転するので、使う上で何とかなる範囲ではありますが、次のプリントでは条件を変えてみます。
- 回転軸に歯車が外れないように止める部品がまだないので、回しているとずれてきます。
今後の対応
- ちょっとだけ歯車の外形を小さくして、余裕を持たせます。
- 歯車を手回しするためのハンドルをつけられるようにしようと思います。
- 複数の歯車の連結をスリーブを使って行いますが、歯車側にも設計変更が必要です。
⇒ 連結歯車対応で実施
- 歯車の厚みを余裕をとって10mmにしていますが、もっと薄くても問題ないと思います。何mmにするか検討します。
⇒ 次項Rev.2で対応。10⇒7mmに。
<歯車(Rev.2)>
歯の厚み変更と機能追加を行いました。
設計(R2)
- 歯車の厚みを感覚的に10mm⇒7mmにしてみました。多少のガタがあっても歯車のかみ合わせが外れないのが重要です。後は実物を見て決めていきます。
- 手回しのためのハンドルや、リンクロッドの接続に共通に使えるような穴を2つ開けました。ここに追加の軸を差し込んで、スリーブと他の部品を取り付けることになります。固定回転軸の部品と共通の寸法にします。
さらにこの穴は歯車を貫通させ、どちらの側からも使えるようにします。
プリント(R2)
今後の対応(R2)
- 複数歯車の連結対応
⇒ スリーブ部品を使った連結歯車の対応を行いました。
10T&40T歯車の追加
<ラック歯車>
直線状に歯の並んだ棒状の歯車です。円の歯車と組み合わせることで、回転運動を直線運動に変えたり、その逆もできるようになります。
設計
- ボードの壁面から突き出した所で動くラック歯車が落ちてしまわないように、保持する部品が必要です。ラック歯車以上にその部品の構造がポイントです。
- ラック歯車の両面に溝を付けて、その溝を保持部品がはさんで支えるようにします。カーテンレールのような形ですね。
- さらに、保持部品は組み合わせる歯車の高さにあわせて有孔ボードに固定する必要もあります。ここは回転軸部品を一部共有します。
- 長さのあるラック歯車をしっかり支えつつ、スムーズに動けるだけの隙間を保つ必要もあります。
- 保持部品は表裏2つを組み合わせる構成で、強度をとるためにジグザグの大きなリブを入れました(デザインが過剰気味です。もう少しシンプルにすれば良かった)。
プリント
組み付け
<リンクロッド>
軸に取り付けて円弧の動きをする棒です。もう一方に別のリンクロッドを取り付ければ色々な動きが作れます。
設計
- 組み立ての自由度を上げるため、長さを数種類用意します。
- 強度が保てるのであれば薄いほうが良いので、幅は3mmとしました。両端に穴の空いた薄い板です。
- 両端以外に中間に穴を設けたものも作ります。
- ひと目で長さが分かるように長さ(cm)を表示します。
プリント
- 縦方向は問題ないですが、横方向には簡単にしなります。思っていたよりも曲がりやすいので対策が必要と感じます。
- 材質(PLA-F)が素材として柔らかめであること
⇒普通のPLAを使えばもっと硬いと思われます。
- スライス時の設定、特に指定したインフィル(Grid 30%)が横方向の強度が弱いかも
⇒インフィルのパターンを見直すべき?パターン自体が立体のタイプのインフィルなら強そうです。
ちなみに以前、見るからに強度がありそうな立体の波パターンのGyroid(ジャイロイド)を使ってみたら、プリント時にヘッドが波のうねりのように動きまわり、普段は動くことがない本体までがゆさゆさ動いていました。これだとメカ部分にすぐにガタがきてしまいそうなので、以降Gyroidは使わないことにしました。
- 設計上の強度面の対応は行っていないので、インフィル入りのモノコック構造でプリントされていることになります。内部に強度を保つためのリブを設ける等の設計上の対応も強度アップへの一案だと思います。
今後の対応
- 横方向の曲がり対策
⇒ 長いものの場合は片面にリブを入れて曲がりにくくしました。実質的にはそれほど問題ないです。
<スライダロッド>
軸に通したスロット穴に沿ってスライドして、回転運動から円弧や往復運動を作り出す部品です。
設計(スライダ)
- リンクロッドにスロット穴を開けたものですが、スライド部分がぐらつきにくいように、ロッド本体よりも幅をとりました。
- セットでクランク(歯車)への固定用の軸部品と、スロットに通す回転軸部品も作りました。回転固定軸部品とだいたい同じですが、ボードからだいぶ離れたところで運動するので、軸の長さを伸ばしています。
プリント(スライダ)
- スライダ部品は特に問題ありません。
- 一方、固定軸部品が組み合わせる部品にうまく合いません(途中からきつくて入りません)。
よく見ると、軸の途中で太さが少し太くなっています。はっきりした理由は不明ですが、影響を与えそうな他の部品も無い高さからなので、プリント中のヘッドの横移動が少なくなったあたりからノズル付近からの輻射熱にさらされる状態が続いて、少しふくらんでしまったのではないかと思います。
条件を一定にするため、軸部品は極力横倒しでプリントするように設計しているのですが、この部品の形状では、立ててプリントするしかありませんでした。
今後の対応
- 軸部品の設計変更(プリント時に必ず複数個プリントする等で対応できるかもしれませんが)
<移動回転軸>
ボードに取り付けて使う固定回転軸に対して、部品同士をつないで一緒に自分も動く、固定されていない回転軸です。求められるのは、他の部品に接触してその動きを妨げないことと、つないだ部品が横方向にぐらつかないようにしっかり支えることです。
設計
- 固定回転軸の軸部品と寸法を合わせて共通なところを増やすようにしました。特に必要があって独自の寸法を取る以外は、共通寸法に合わせてゆく方針です。
- 外側の押さえの円盤状の部品は、外径を一杯に大きくしますが、幅は極小にしたいため1mmの厚みしか持たせていません。
プリント
- 部品同士のはめあい具合はちょうどよいです。
- 外側の押さえの円盤がすこしペナペナ曲がるので、もう少し厚いほうが良いと思います。ただし、この部分の寸法は、リンクロッドやスペーサー、さらに他の部品のスリーブの寸法にも影響してくるので、よく考える必要があります。
検討点
- 押さえ部分の幅の最終値を決めること。
(つづく)





























































