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レーザー加工のコツ

加工のポイント

1)加工データを準備して、2)加工条件を設定して、3)材料をセットしたら、後は機械におまかせになりますので、この3つの部分で加工結果が良好になるように準備します。

**1)加工データ**

「切断」と「彫刻」

  • レーザー加工機は2種類の加工ができるようになっています。切断彫刻(※)です。加工機はレーザーを材料に当てながらヘッドを指示どおりに動かしているだけなのですが、この2つは処理方法自体が大きく異なっています(レーザー出力の強弱の話ではありません)。
    (※)彫刻という言葉にはいつも違和感を感じますが、ここでは立体造形を行うわけではありませんので「刻印」「マーキング」あたりが適当だと思います。
  • アクリル板の切断切断」は、加工データの線に沿ってレーザーを当てていきます。線が曲がっていればそのとおりにヘッドが動き、線の端にくればそこでヘッドの動きも止まり、次の線の加工をしに行きます。
    そのため、切断のためのデータは線でできている必要があります。その線が途中で太くなったり細くなったりしてはいけません。
  • 彫刻:斜めの線も水平線で描かれています彫刻」は、それとは対象的に面のデータを加工するためのモードです。絵や写真など色の濃淡や線の強弱も(一見)表現できます(もちろんモノクロで)。
    これを再現するために、加工機はヘッドを左右に行ったり来たりさせて水平の線を一本ずつずらしながら描くことを膨大な回数繰り返して織物のように面を描いていきます。一本の水平線の中でレーザーを細かくON/OFFして元の画像の部分的な濃淡を表現します。
    これを実現するために、加工機の制御ソフトが、元の画像データを白黒2色に単純化した画像に変換し、断続した水平線の集りに置き換えて加工機に送るデータを作ります。
    加工したいデータが1本の曲線だったとしても、その曲線に沿ってヘッドが動くことはなく、彫刻ではその線は膨大な水平線に分解されてから、細切れの水平線の集合として再現されます。
  • 彫刻・切断それぞれに、どのようなデータ(色、線の太さ、属性等)を準備するかがマニュアル上で指定されていますので(厳密には、指定に沿っていなくとも加工できないわけではないようですが、間違いやトラブルを防ぐためにも)それに合わせてデータを準備します。


レイヤー活用

  • 切断・彫刻は上述のように全く違う処理ですので、一緒にはできません。文字を彫刻してその周りを切り抜きたいなど、同じ材料に加工する場合は、デザイン上でレイヤーを別にして作成しておきます。
    ちなみにレイヤーの順番は彫刻をした後で切断するようにしておくのが一般的です。材料を支える関係で、切断時に切ったものがずれることがあるので、その場合ズレたところに彫刻してしまうリスクがあるためです。
  • レイヤーを分けることで、異なる加工条件を一緒の加工の中で_使い分けることもできます。
    キャラクターと背景とで別のレイヤーにして、加工条件を変えた2種類の彫刻加工を重ねるといったことが出来ます。
    また、切断線の加工順序は機械におまかせになってしまうので、順番をつけたい場合(外枠の切断を最後にする等)は、データをレイヤーで分けてやれば、レイヤー順に加工されます。


その他の留意点

  • 切断用のデータについては、加工線を2重に作ってしまった失敗が何度かありました。
    デザインソフト(Inkscape)上で元の図形をパスに変換する作業をする際に、アウトラインのパス化という処理を行ったところ、一つの線の両側にパスができてしまい、加工機が同じところを2回加工するので初めて気が付いた次第です。不要な加工を重ねると加工箇所が汚くなってしまいます。
    とにかくパス化しないといけないという頭から、要らない処理をしてしまっていました。内容をわからずに処理すると後でトラブルの元になります。
  • 彫刻のデータについては、色の濃淡も反映してくれますが、加工する素材によりその濃淡の実際の出方は色々です。元画像ほどコントラストが高くならないのが普通でしょう。出来上がりを想定して試し加工や元画像の濃淡を調整したり等が必要になります。
    元画像です アクリルを加工中 ぼんやりしてます。すりガラスのようですね 今度はMDFを加工中(繰り返し2回) こちらもうすぼんやり。細かいところはわかりません














**2)加工条件**

  • 図案などの元データから、加工用データを制御ソフト上で作成して加工機を動かします。ユーザーが設定できる項目(加工条件)としては、切断/彫刻の別、レーザー出力、加工速度、解像度(彫刻のみ)、繰り返し加工があります。彫刻に関しては、Podeaの場合、元データから白黒2色への画像変換方法を指定します(4種類)。
    これらの設定は、元データのレイヤー毎に指定します。
    • 切断/彫刻の別:どちらの加工をするか選択します。
    • レーザー出力:レーザーの光の強さです。
      加工しにくいもの、厚みのあるものなどは強く設定します。強すぎてもきれいに加工できませんし、煙や粉塵もそれだけ多く出ます。
    • 加工速度:ヘッドがレーザーを照射しながら動くときの速さです。
      速度が遅ければそれだけレーザーが当たる時間が長くなるので強い加工になり、出力を上げたのに近い状態になります。早すぎると切断線が点線のようになってしまうこともあります。
    • 低解像度 高解像度解像度(彫刻のみ):ヘッドが左右に動いて描く水平線の密度(奥行き方向)を設定します。
      彫刻はヘッドの動く距離が切断よりも圧倒的に長いのでその分加工が長時間になりがちです。解像度を粗くするとその時間を減らせます。ただし加工された結果の画像がその分粗くなるので、どの程度までなら許容できるか、品質とのトレードオフで判断します。
    • 繰り返し加工:同じ加工を繰り返します。
      1回で切断できないものが繰り返し加工によって切断できたり、熱に弱い材料を弱いレーザー出力で繰り返して彫刻加工する場合等に使えます。
      切断は1回でできるものは1回がいいと思います。彫刻は、メーカーの設定例上は2回に設定しているものが多かったです。
  • MDFの彫刻条件チェック アクリルの彫刻条件チェックこれらの設定項目は、加工する材料の種類や厚みによって変えてゆくのが妥当です。当施設内でも材料の種類と厚み毎のおすすめ加工条件を幾つか作っていますので、まずはそれで試していただくのが効率的です。その上で個々の材料の状態に合わせた最適の設定を探してもらえば良いと思います。
  • 複数ある設定項目ですが、同じような結果を得るためには複数のやり方があります
    厚みのある材料の切断には、レーザー出力を高める/加工速度を遅くする/繰り返し加工をするの3種類の調整の仕方があり、どれも有効です。
    その際は、切断すること以外の内容を考慮に入れて設定を決めます。切断面はきれいな方が良いのか、寸法精度が高いほうがよいのか、煙やヤニによる汚れはどの程度許容できるか、その条件での過去の加工事例の有無等々。
    それぞれの設定の傾向はある程度予測できるものの、本番前のテスト加工で確認しておくのが重要です。
  • 傾向としては、以下のようなことが言えそうです。
    • アクリル板の切断では、レーザー出力を上げて加工速度を早くすると、切断した面がくっつきやすく、剥がすのに力がいる。
    • アクリル板の切断では、加工速度を遅めにしたほうが、切断面が(溶けて)なめらかに仕上がる。
    • MDFの彫刻では、レーザー出力を弱く、繰り返し加工をしたほうがきれいにできる。加工条件は、いかに焦げを押さえつつ加工データをはっきり刻印できるかの調整になる。


**3)材料のセット**

加工する材料と加工機へのセットの方法について

材料の加工面

  • 材料の選択:加工機が縦横軸(XY軸)上で水平にヘッドが動き回る構造のため、材料の加工する面は、平面である必要があります。もちろんレーザーヘッドが材料に接することはないので、刃物で切削する機械に比べればずっとルーズで大丈夫ですし、ある程度凸凹の面でもそのまま凸凹を生かした加工もできる懐の深さをもっています。とはいえ、右と左で加工の深さが違ったりしないよう、加工面が水平になっているように配慮が必要です。


材料セットの位置

  • 加工機を立ち上げてまず最初に、レーザーヘッドは機械原点となる左上の角まで移動します。それ以降の加工位置の基準となる重要な点ですが、加工そのものは左上でなくもっと加工テーブルの中の方でやった方が良いと思います。
    • 加工エリアの左上加工テーブルの縁が金属の枠になっていますが、この枠に接する箇所で加工すると、レーザーが枠で反射して材料に跡が付いてしまうことがあります。位置決めのために材料を枠に当ててセットしたいところですが、加工部分が端にある場合はすき間を空けて位置決めします。

    • 取り外した加工テーブル同様に、加工テーブルには、ハニカムの網を支える金属の中枠が2本入っていますが、これもレーザーを反射して材料を汚してしまうことがありますので、できるだけ加工箇所に重ならないような位置に材料を配置します。


    • 並んだスリットが排気口Podea Zero Corsaでは、排気口が本体奥に横一列に並んでいて、加工して出た煙や粉塵はそこから排出されます。機械の端よりも中程の方が煙が拡散して排出しやすいと思われますので、なるべく加工テーブルの端を避けて材料をセットするようにしています。


  • 彫刻加工ではレーザーヘッドは、加工条件で設定した速度で左右に行ったり来たりします。その際に一旦止まって向きを変えて動き始めるので、速度が上がるまでに距離が必要です。
    そのため左端に材料をセットして速度を早く設定していると、材料上でまだ速度が追いついていない部分が出る可能性があり、均等に加工出来ません。それを避けるために材料の左右に助走距離を確保しておきます。
  • 材料の縦横を加工機のレーザーヘッドの水平/垂直に合わせるには、加工テーブルの枠の端を目安にします。端からの距離を測って位置を決めます。ただし厳密には加工テーブルの端とヘッドが動くX軸の部品の平行が取れているわけではありません。加工するデータもそのつもりで準備します
    (前に一度チェックしてみたら、横方向600mmの両端で縦に1mm程度ずれていました。ただしこれもテーブルの台にハニカムテーブルを取り付ける際のズレで変わってくる可能性もあります)。
    • 大きめの材料から一回で彫刻/切断両方の加工を全部行う場合は、材料から加工がはみ出さないように気をつけるだけでよいので、そう問題ではありません。
    • 加工を何回かに分けて行ったり、最初から加工する位置がはっきり決まっている材料を使う場合は面倒です。一番正確なのは、加工するレーザーそのもので引いた線ですので、あらかじめテーブルに紙を貼って、加工品の外枠や基準線をレーザーで切り抜いて、その切り抜き箇所に材料を合わせてから加工を行うような工夫が必要です。


材料の保護

  • MDF製禁煙マーク加工箇所の保護:レーザーで加工(特に切断)すると、切断線の周りにMDFでは茶色いヤニが、アクリルでは半透明のくすみが付いて汚れます。加工時に気体になって発生するヤニ成分や蒸発したアクリルが周りに付着したものです。
    MDFではレーザー加工の味と言えないこともないですが、加工品をきれいに保つために、これを軽減したり、防いだりする手段がいくつかあります。

保護の方法

  • 煙や粉塵、ガスの排出は加工機の基本機能ですが、これが機能していないと汚れの原因物質が除けません。排気の能力が足りない場合は、テーブルの使っていない部分をマスクして、加工箇所付近の排気圧を上げる方法もあるようです。
    Podea Zero Corsaの場合、加工時にレーザーヘッドからエアが加工箇所に吹き付けられますので、材料の上面は常に風で煙が散らされています。材料の下面は、レーザーが貫通して下に吹き出す煙やガスは、テーブルのハニカムの網を通って下から奥の排気口へと吸い込まれていきます。
  • 物理的に付着を防ぐ方法もあります。
    MDFの加工面にマスキングテープを貼ってレーザー加工すれば、切断線の周りも茶色くならずきれいなままに保たれます。アクリル板はもともと両面に保護紙が貼り付けてありますが、この保護紙をつけたままレーザー加工しても問題ありません。
    ずっと保護紙をつけたまま加工して後で剥がすというやり方を取っていたのですが、困った点もありました。
    上面は保護紙で保護されて全然問題ない状態なのですが、下面については切断線から少しにじんだようにくすみがあちこち見られます。それほど目立つものではないのですが、透明アクリルでは光の当たり方によっては結構気になることもあります。

くすみ対策

   検索してみるとくすみへの対応方法が見つかりました。

  •  研磨する:アクリル表面が荒れた場合やきれいに整えたい場合に研磨剤(コンパウンド)を使って磨き上げるというやり方があります。アクリル用のコンパウンドを買って実際に手研磨してみました。結果は、くすみがほとんどわからないぐらいにきれいになりました。ただし研磨の手間も結構掛かるので毎回やる気にはなれません。


  • 紙製ハニカム下敷き:加工テーブルに使われている金属製のハニカム板の紙バージョンのようですが、紹介記事を見ると、加工後の汚れが見られなくなったそうです。燃えにくい処理がされた網状の紙で、テーブルと材料の間にはさんで使います。興味が出てきたので購入しようかと思いましたが、販路が限られていて価格も紙の割に結構するので保留にしておきました。
  • 裏面保護紙はがし:くすみは、加工時に発生するアクリルのガスが切り口から材料と保護紙の間に入り込んで固まって出来ているようです。
    原因となるガスを逃してやる必要があるので、下面のみ保護紙を剥がして加工してみました。そうすると今度はくすみが見られません。切り口がきれいな状態になりました。
    その一方で、今度は何か六角形の模様が付いている場所があります。ハニカム板の跡です。金属製のハニカム板が、材料を貫通したレーザーで熱くなって、接触しているアクリルの表面を溶かして跡が付いたようです。
    前述の紙製ハニカムは、熱が伝わりにくいので跡が付かないということだと思います。
    一難去ってというところですが、アクリルとハニカム板が触れなければよいので、保護紙を剥がした下面の両端(加工部分の外)に厚めのマスキングテープを2枚重ねて貼って、ほんの少しすき間を作ってレーザー加工してみました。今度はうまくいきました。変な跡も付かずにきれいなままです。
    少し浮いているので、切断時に動いてしまう可能性がありますが、テープの貼り付け位置を工夫することで対応します。
    レーザー加工する上面は保護紙付き下面は保護紙を剥がしてマスキングテープで少し浮かすこのやり方をアクリル切断の際のデフォルトにすることにしました。
    ※(以下画像)保護方法を変えて同じ文字「?」の切り抜きを4通り加工して、加工後の下面を比較しました。No.1:両面保護紙付き、他は下面のみ保護紙なし、No.2:材料の両端にマスキングテープを貼って、ハニカムから少し浮かす、No.3:何もしない(ハニカムに接触)、No.4:内側の切り抜き部分もテープで浮かす(No.2が外枠を切断したところで下に落ちてしまったのでテープを追加)。材料を浮かせる効果は大きいですが、浮かせる高さと切断時の支えをどうするかは工夫が必要です。
    「?」と外枠の2レイヤーで3mm厚アクリル板を切り抜きます No.2のテープ貼り No.4のテープ 左からNo.1~4、まあきれいにできています No.1:うっすらとスジがあるのが見えますか No.1:光の加減ではっきり見えます No.2:少しだけ跡がついています No.3:ハニカムの跡が付いています No.4:皆無とは言いませんが、ほとんど跡は見られません 切り抜いた外側でも同様の状態がわかります(手前がNo.1)
    ※文中でメンディングテープと書いていたところがありましたが、マスキングテープの誤りですので修正しました(2021/12/19)。
  • 裏面の保護紙をマスキングテープに交換:前項の裏面保護紙剥がしの手法は、アクリルの表面がハニカム板に触らないように距離を取るためのテープ貼り作業が面倒です(切断時にパーツが動かないような位置を考えて貼るため)。
    アクリル板に元々付いている保護紙は、物が当たっても傷が付かないようにしっかりした紙が使われていて、なおかつ簡単に剥がれるようになっています。私見ですが、レーザーがアクリルを切断した後、保護紙が切断されるまでの間に、発生したアクリルガスが逃げ場を失い、剥がれやすい保護紙とアクリルの間に入り込むのではないかと思います。そう考えると、もっと簡単に切断されて粘着力の強い保護紙ならくすみも出ないのではないでしょうか。
    ということで、アクリル板に元々付いていた裏面の保護紙を剥がして、代わりにマスキングテープを貼って切断してみました(マスキングテープは和紙ベースでいつも使っている3Mの243J Plus)。保護紙代わりなので、今回はテーブルから浮かせるためのテープ貼り作業は行いません。
    加工後、マスキングテープを剥がしてみると(粘着力はさすがに保護紙の比ではありません)、くすみの発生は見られませんでした。これなら、手間は保護紙の貼り替えだけでよく、ノウハウとかも必要ありません。こちらの方法をアクリル切断の際のデフォルトにします。
    幅が足りないのでテープ2枚貼りです マスキングテープを剥がす前、テープの切断面は焦げで黒いです 放射状のは光の反射でくすみではありません
    (2021/12/24追記)


その他

トラブル対応

  • あってほしくない加工中のトラブルですが、実際ゼロにはなりません。中には理由のわからないものもあります。それでも、理由のわかるトラブルについては起きないように努めていけば、発生する回数を減らすことは出来ます。


参考

  • レーザー加工関係で時々参考にしている加工機の商社のサイトです。ここは色々な切り口でまんべんなく興味深い記事を作成されていて大変参考になります。紙製ハニカム下敷きの話はここで知りました。
    コムネット


tools/laser/howto.txt · 最終更新: 2023/03/31 18:37 by Staff_Ujiie