▽このページの目次▽

機構模型セットの作成



オートマタを作るにあたって、動く仕組みの部分はそれほど複雑なものは必要ないと思う一方で、シンプルな仕組みを熟知して使いこなしていけるようにすることは重要に思えます。基本的な機構について参考書で知識として情報を頭に入れることと、その機構について自分なりの理解をして評価してゆくことで、使える引き出しになっていくと思います。
ここでは少しずつこのプロセスを回して整理していきます。

参考書籍

参考とした書籍は、主に以下の2冊です。どちらも、基本となる機構をわかりやすく整理して説明してあり、よかったです。内容的には重複している部分も多いですが、異なる著者が同じものに対すして説明している内容の違いを意識することで、理解が深まるところもあります。

  1. 必携「からくり設計」メカニズム定石集
     ーゼロからはじめる簡易自動化ー

     熊谷英樹著 日刊工業新聞社
    工場の生産設備・機械の自動化に活用できるからくりという観点から、使用例と仕組みの説明がわかりやすく書かれています。



  2. 絵ときでわかる機構学(第2版)
     宇津木諭/住野和男/林俊一共著 オーム社
    こちらのほうはタイトルに機構学とうたっているだけあって、理論寄りの説明です。数式や例題もあります。
    最初はちょっと読んでわかりにくくてすぐにやめてしまいましたが、1.を一通り読んだ後で再挑戦してみたら、理解できる部分がかなり増えていました。特に内容が体系的に書かれているので、色々な機構の位置づけがわかります。


模型の意義

知識として頭に入れた機構の情報を自分から使えるレベルに持ってゆくには、色々なやり方がありますが、実物を見て動かして実感する体験が一番近道だと思います。とはいえ、身の回りに都合よくそんな機械類が揃っていることもないでしょうから、模型を自分で作って、それをいじって実感するのが良いと思います。
今回は、3Dプリントで作れるオートマタの設計が一つのポイントですので、機構の模型も3Dプリンターで作って、設計~製作のノウハウも同時に集めていきます。

機構模型のコンセプト

機構も様々なものがありますが、その中で同じ要素も何度も繰り返し出てきます。完成品を何種類も作るのではなく、使いまわしが出来る共通部品を作成し、自分で組み立てて試すことができる汎用性の高いものにしようと思います。
ベニヤ板やMDFなどに等間隔で穴の空いた、ホームセンターで買える穴あきボード(有孔ボード/パンチングボード/ペグボード)を土台にし、その穴を利用して歯車やリンク類を取り付けて機構模型として使えるような部品群を制作することにしました。穴の間隔を基本の単位として、取り付ける部品の長さや大きさを何通りか用意します。

部品制作

<穴あきボード(有孔ボード/ペグボード)>

ベースとなる穴あきボード(有孔ボード/パンチングボード/ペグボード)は市販のもので何でもよいですが、いくつか条件があります。

条件


<固定回転軸(Rev.1)>

穴開きボード上に固定する回転軸の部品。歯車、カム、リンクロッド等の各部品をそこに取り付けます。
必要な要件としては、


設計

力のかかる箇所もあるので、積層造形の3Dプリントでも強度が取れる設計をするのがポイントです。
入り組んだ形ですが 4つの部品の組み合わせです


制作・感想




今後の対応事項


<固定回転軸(Rev.2)>

まずは、ボードから突き出す高さを減らす対応と、取り付けた部品の外れ止めの追加です。

設計(R2)

上図と比べてみてください ストッパーをつけました


プリント(R2)


対応事項(R2)



<固定回転軸(Rev.2/3点固定仕様)>

固定軸はボードの穴4つで固定するのを基本にしていましたが、その場合、軸同士の最短距離が結構広くなってしまい、各部品も大型になってきました。その分、一つプリントするのに時間がかかってしようがないので、もう少しコンパクトにまとめられるよう、穴3つで固定するバージョンを作りました。

設計(3点固定版)

変更した部品 組み合わせたところ どこかで見たような形ですね

プリント(3点固定版)

1/4球面の頂上付近が少し荒い出来です

基本はこうですが もうひと目盛り寄せられます 斜めにも


<固定回転軸(Rev.2-A(歯車連結用)>

歯車同士を組み合わせて回転させたときの減速/増速比は、各歯車の歯数の比率の逆数(歯数が10の歯車に20の歯車を組み合わせて回したら、20の歯車の回転速度は1/2に減速)になります。
大きく減速したいときは、それだけ歯がたくさんある大きな歯車を使えばいいことになりますが、現実的には大きさにも限度があります。そんなときは2枚の歯車を一体化した部品を使うことで、限られたスペースでも大きな減速比を作り出すことが出来るようになります。
市販のタミヤのギヤボックスを見ても、連結歯車を何段も繰り返し重ねて大減速できるようにし、様々な減速比を選べるようにもしています。
今回は、歯車と回転軸の間に回転しやすくするために入れているスリーブを、逆に歯車同士を固定する部品にアレンジして使います。

設計(歯車連結)


制作(歯車連結)

連結歯車部品一式 追加の延長回転軸

組み付け(歯車連結)

20Tと40Tの2枚を合わせて固定します 下のハンドル付き歯車が動力源です スロット付きのロッドを組み合わせて往復運動をさせてみました

今後の対応(歯車連結)


14T歯車の追加(歯車連結2)

小さいのでシンプルに プリント結果はあまりよくありませんが

14T歯車組み付け(歯車連結2)

前述の連結歯車の組み付け例に、もう1つ減速用の歯車を追加して、そこから往復運動をさせるようにしてみました。2段の減速20T:40T&14T:40Tで、合わせて5.7:1の減速になります。ハンドルをくるくる回しても、見るからにゆったりと回ってくれます。
歯車の組み合わせ方 スロット付きロッドを動かします


<歯車(Rev.1)>

歯車は、動きをズレなく伝達する手段として一般的ですが、見た目も印象的で使いたい気にさせる機構です。
前述の回転軸部品に取り付けて使います。歯数が異なる数種類の歯車を作って以下の内容を試せるようにします。


基礎知識


設計(共通)


設計(平歯車)




制作(平歯車)


今後の対応


<歯車(Rev.2)>

歯の厚み変更と機能追加を行いました。

設計(R2)

顔つきが変わりました

プリント(R2)

左:7mm 右:10mm



今後の対応(R2)

10T&40T歯車の追加

10Tデザイン 40Tデザイン 3Dプリント


<ラック歯車>

直線状に歯の並んだ棒状の歯車です。円の歯車と組み合わせることで、回転運動を直線運動に変えたり、その逆もできるようになります。

設計

ラック歯車 保持部品A 保持部品B 組み合わせたところ 隙間を大きく開けました。鉄橋のような感じもします

プリント

3つの部品で構成されます 組んでみます。スライドに問題はありません

組み付け






<カム機構>

一定の回転運動する軸の動きを、速度を変えたり往復運動に変えたりするのがカム機構になります。回転するカムとそれに接触して動く従動節(カムフォロワ)の2つで構成されますが、単純な動きから複雑な動きまで動く量や速さを連続的に変える動きを作れるのが特徴です。

設計


プリント

左が修正後 2回目の修正版です


組み付け

ボードに設置 カムまわり 従動節を押し上げる部品を追加した逆さまバージョン。右の板カムは重しとして使ってます 実は以前作ったスロット付きロッドでもシンプルに使えます


今後の対応


<リンクロッド>

軸に取り付けて円弧の動きをする棒です。もう一方に別のリンクロッドを取り付ければ色々な動きが作れます。

設計


プリント


今後の対応


<スライダロッド>

軸に通したスロット穴に沿ってスライドして、回転運動から円弧や往復運動を作り出す部品です。

設計(スライダ)

軸が太いので穴が大きいです クランク取り付け用(上の2つ) スロット用


プリント(スライダ)

スライダ部品 軸部品2種。右は少し削って合わせました 組み合わせて見ました


今後の対応


<移動回転軸>

ボードに取り付けて使う固定回転軸に対して、部品同士をつないで一緒に自分も動く、固定されていない回転軸です。求められるのは、他の部品に接触してその動きを妨げないことと、つないだ部品が横方向にぐらつかないようにしっかり支えることです。

設計

スリーブは共用です

プリント

こんなふうに接続します リンクロッドと一緒の写真です



展示用作例

展示スペースなどで人に見てもらうために、手頃なボード上に組み立てた、モーターで動く機構模型の作例です(別ページ)。



(つづく)